もっとも奇妙な瞬間で止められた物語
眠る女は無防備だが、ライオンは獰猛というより好奇心を示しているように見える。ルソーはその前後を取り去り、動物の垂れた頭と女の閉じた目とのあいだの緊張を、永続するものとして留めている。満月はそのどちらをも照らしながら、両者の出会いの意味を明かしはしない。
旅人であることを示す品々
杖とマンドリンが人物と並んで横たわり、そばには水がめが置かれている。彼女の縞模様の衣は、楽器の弦と砂漠の稜線が刻むのと同じ律動を続けている。ルソーは彼女を放浪の音楽家と呼んだが、今日では歴史的な題名にある「ジプシー」という語が、ロマの人々にしばしば押しつけられてきた呼び名であり、中立的な呼称ではないと認識されている。
パリで思い描かれた砂漠
ルソーはこうした風景を実際に訪れたことはなかった。彼は植物園や大衆的な図像、そして想像力を通して異国の情景を築き上げた。ここでは写実的な縮尺や大気の奥行きの欠如こそが要となっている。それぞれの物は孤立し精緻に描かれ、その場面を観察不足によるものではなく、意図された夢のような世界として感じさせている。
相容れない事実から組み立てられた夢
月、ライオン、眠る女、マンドリン、水は、それぞれこの上なく明晰に描かれながらも、自然界で起こりそうなひとつの場面には収まらない。ライオンは襲うことなく身をかがめて匂いを嗅ぐ。縞模様の衣は何もない地面の上でくっきりとした柄を保ったままだ。満月は誰もいない風景を照らし、その奥行きはわずかな水平の帯にまで切り詰められている。
ルソーの題名と説明は物語を誘うが、その人物は実在した特定のロマの人を描いた肖像ではなく、想像上の類型にすぎない。この時代がかった呼称は作品の来歴に属するものであり、見過ごされるべきではない。それでもなお心を捉えるのは、周到につくられた不可能な世界である。奇妙な要素のひとつひとつを等しい真剣さで描くことによって、ルソーはこの場面を、中断された出来事というより、私たちが訪れる前にすでにその法則が完結していた夢のように感じさせている。
出典と参考資料
- ニューヨーク近代美術館 収蔵品ページ作品記録と、この場面についてのルソー自身の説明。
- オランジュリー美術館 アンリ・ルソールソーが築いた想像上の世界についての機関側の解説。
